「逃げるぞ、さぁ早く!」


それはあの事件から二日目、お父さんが警察での事情聴取を終えて戻ってきた時のことだった。


その手には、急いでかき集めたらしい必要最低限を詰めたものなのだろう、ボストンバッグ。


それはつまり、瑠衣をこのまま見捨てるということだ。


警察からの疑いの目、周りからの好奇の視線、借金取りからの脅しや、とにかく色んな事が身に迫っていた。


手を引かれた。


気付けばお父さんと一緒に、足を踏み出していた。



「とにかく遠くへ行くぞ!」


もう一緒にはいられないこともわかってて、何より瑠衣が意識を取り戻してしまえば、現実と向き合わなければならないのだ。


それが一番怖かったこと。


あの頃、全てを受け止めるには本当に幼すぎて、だから逃げることしか出来なかった。


瑠衣が一番大事だったはずなのに。


なのに気付けばそれよりずっと、自分の保身のことばかり考えていた。





血まみれの床。

転がった鈍色の包丁。

倒れて動かないふたり。



頭裏に焼き付いたままのそれらが怖い。