「ごめんね、今まで。」


「……え?」


「汚い仕事ばっかり任せて、でも百合ちゃんが何も言わないことを利用してた。」


懺悔するかのような台詞だけど、不思議と心が痛むことはない。


きっと最後に詩音さんの本心を聞けて、あたしは嬉しかったんだと思う。



「いてくれて良かった、なんて言ったら語弊があるかもしれないけどね。
それでも、今までここで働いてくれて、感謝してる。」


「それはあたしの方ですよ。
詩音さんに拾ってもらったから、今があると思ってます。」


ジローも、きっと真綾だってそう思っているはずだ。


この街で誰かと出会う偶然はありふれているけれど、それでも繋がっていたことは奇跡に近い。



「ありがとうね、百合ちゃん。」


詩音さんは、笑っていた。


笑っているのに、少し寂しそうな顔だった。



「今日は月が見えないなんて、残念ね。」


「こんなとこから見えるんですか?」


だっていつもここからじゃ、ネオンの色ばかり鮮明だ。


少し疑って言ったあたしに彼女は、



「見ようとしなければいつまで経っても見えないし、心が泣いてたら、例え目の前にあっても霞んじゃうんだよ。」


「……え?」


何を言っているのかがわからなかった。


だってその台詞は、決して聞き間違いなんかではなかったのだから。


問い返そうとした刹那、あたしの携帯の着信音が鳴り響く。


ディスプレイには“瑠衣”の文字。