みんなの視線がこちらに向けられる。


けれど、あたしが口を開こうとするより先に、ジローが割って入った。



「百合、頼むから!
せめて落ち着くまでの少しの間だけでも良いから、残ってくれ。」


そう言って、彼は頭を下げた。


詩音さんのためにそこまでしているのだと思うと、横の真綾の顔を見れない。



「金なら増やすし、譲歩はするから!」


ジロー、とさすがに見かねたのだろう詩音さんが、彼を制止した。


必要とされているのは、ひしひしと感じる。


ここであたしが首を縦に振ってあげるだけで良いのだとは思いながらも、でも瑠衣の顔がチラついて仕方がない。


今はもう、あたしの意志がどうのではなく、これ以上あの人を悲しませるようなことは出来なかった。



「ごめんなさい。」


それが口から洩れた言葉だった。


ジローはその瞬間に悔しそうな顔をして唇を噛み締めるが、でも詩音さんも真綾もある程度は予想していたのだろう、納得してくれた。



「わかったわ、百合ちゃん。」


裏切ったわけではないはずなのに、罪悪感に包まれる。


くだらないと思いながら嫌ってばかりだったこの場所だけど、でも反面でしがみ付いていた。


この街で捨て切れなった場所より、それでも瑠衣を選ぶということ。



「こっちはこっちで何とかするから大丈夫よ。
だから百合ちゃんは気にしないで、別の道を歩いてね。」


詩音さんという人がわからない。


今はこんなに辛そうな顔をしてて、あたしの心配をしてくれている。


あれほど冷笑しか浮かべていなかったはずの人なのに。