「わかんないけど、ふらふらした後で帰ると思う。」


2年という日々の中で、お兄ちゃん達の環境が変化したように、あたしもまた、簡単には捨てられなものがあの街にある。



「でも、爽馬も百合のこと心配してるし…」


爽馬とは、弁護士になった二番目の兄であり、彼の友達が、あの家庭教師の後藤だ。


あんなことになるなんてきっと誰も思っていなかったろうけど、それでも、そうちゃんを恨んでいない気持ちだってなくはないから。


あの眼鏡姿は今も健在なのだろうかと、どうでも良いことを思ってしまう。



「そうちゃんには、まだ会えないと思う。
でも、あたしが悪いことして捕まったらその時はよろしくねー、って言っといて。」


笑い話のつもりだったけど、言葉にしてみれば、リアルすぎて冗談にもなっていなかった。


お兄ちゃんはあたしが体を売っているということは知っていても、それが法に触れているなどとは露も思っていないだろう。



「ねぇ、アンタ医者ならさ、あたしのこと手術してよ。」


「…え?」


「脳みそとかさ、いらないから。
記憶とかも全部消えて、そしたら一緒に暮らしたり出来るかもね。」


相変わらず窓の外に投げている視線を戻すこともなく、自嘲気味に言ってみた。


彼は悔しそうに唇を噛み締め、顔を俯かせる。



「あたし、何かおかしいんだ。
時々パニックみたくなったりしてね、多分人間の出来損ないだからだと思うけど。」


「…百、合…」


「ほら、馬鹿には脳みそがあってもなくても一緒、って言わない?」


もしかしたら、誰かに聞いてほしかっただけなのかもしれないけれど。


ただ、漏らすように取り留めのないことばかり言っていて、なのにお兄ちゃんは本当に辛そうに肩を震わせる。


あぁ、また誰かにそんな顔をさせることしか出来ないのか、と思うと、いつも消えてしまいたくなる。