ふたりはバツが悪そうな顔をし、ぱっと体を離した。


詩音さんが涙しているのも、ジローが表情を崩すのも、全て初めて見た姿。


だから言葉も出ずに視線を下げることしか出来ない。


刹那、沈黙の中で詩音さんの携帯が鳴り、彼女はそれに出て手短にだけ会話をし、通話を終了させる。



「百合ちゃん、ごめんなさいね!」


電話の相手は緒方さんだったようで、涙を拭った彼女はそれだけ言って逃げるように靴音を鳴らし、部屋を出た。


まさか、このタイミングでジローとふたりっきりにされるとは。


彼は諦めるように煙草を咥えた。



「百合に見られるなんてね。」


「…付き合ってたの?」


「まさか、それはないよ。」


ならば彼の片想いということか。


今までの言動から推測しても、それは頷ける。


あたしも煙草を咥え、ふたり分の頼りない煙だけが部屋を漂っていた。



「一応言っとくけど、誰にも言わないでね?」


「こんなのバラしたって、あたしは得すること何もないから。」


言ってやると、ジローは少し安堵の表情を見せた。


公称22歳、これが普段の顔だろう。


いつもは眉のひとつも動かさないくせに、彼をここまでさせる詩音さんは、ある意味ではすごい存在なのだろうけど。



「俺さ、あの人には感謝してるんだ。」