「何があっても、心が綺麗なら月は輝いて見えるんだよ。」


それが彼女の口癖だった。


陰りも曇りもないその瞳は真っ直ぐで、どうしてそんな風に生きられるのか不思議でもあった。


真っ暗な夜に、風の音や虫の声、そして祥子といる時間が、いつしか全てになっていた。


母は苦労していたのかもしれない。


血の繋がらない父はそれでも借金を重ねていたのかもしれない。


けれど、都合のいい時だけ子供に戻り、現実から目を逸らしていた。


全てが崩壊したのは、中学3年になった時だった。







「離婚、することにしたの。」


嘘だと思いたかった。


贅沢がしたいわけではないし、行くなと言うなら高校進学だって諦めたって良い。


けれど、祥子と離れることだけは出来ない。



「…何、言って…」


「お父さんね、お母さんの名義でもお金を借りてたの。」


複数の消費者金融から、合わせて二百万。


けれど、中学生にはちょっと聞き及ばない額だった。


母さんの夜のパートの時給から計算したって、返済するにはどれくらい掛かるのかすら想像出来ない。


きっと高岡名義の借金はもっとあるのだろうし、ならば一緒にいられないということも頭ではわかるけれど。


自分の無力さをこれほど痛感させられたことはない。



「もう決めたことなの、瑠衣。」