「ごめん、今日は帰る。」


言った瞬間、瑠衣は捨てられた子供のような目を向ける。



「連絡、ちゃんとするから。
でも今日は帰らせて。」


ホントにごめん、と言い、席を立った。


ひとりで店を出たけれど、瑠衣は引き留めてはくれなかった。


そんなことだって、わかっていたはずなのに。


責める気はないのだ。


体を売っているあたしが瑠衣に言えることなんて何もないし、愛でも恋でもないとわかっていながら一緒にいたのは、お互い様。


あたしもまた、瑠衣のことを、唯一無二として選べないから。


ただ、孤独を恐れて一緒にいるだけのこと。


そういう意味では何より大切なのかもしれないけれど、でも全てを捨ててまで共に生きられるとは思えなかった。


目を逸らすのは簡単だけど、それでも知ってしまった以上、向き合うことから逃げられなくなった。


指輪を外そうとしなかったのは、まだ何の答えも出ていないから。


必死で何かと闘いながら、みんな、心落ち着ける存在を探している。


支えもなく立てるほど強くはなくて、だから瑠衣の存在に縋っていたし、きっとそれによって傷つけ合っていたのだろう。


あたし達は、ただ愛し合うということが出来ない。


その方法もわからなければ、所有欲で縛ることでしか形に出来ないだろうから。


あたしにはジュンも必要で、瑠衣だってきっと、アキトを心のどこかで求めているはずだ。


憎み合っても一緒にいるのは、それほどまでに血の繋がりが重要だからだろうか。


わからないことだらけの海に沈んでしまいそうだね、瑠衣。


色んなものの狭間で揺れながらあたしは、濁ったネオンの街を見た。