香織からオーシャンで飲もうと誘われたのは、あの日から2週間ばかりが過ぎ、落ち着きを取り戻した頃だった。


一面鏡張りの偽りの城は、今日もボトルに見せかけた金が飛ぶ。


あたしは極細客だしジュンの友達なので良いけれど、香織のことは心配だった。


取り分がどれだけ減ったのかなんて知らないけれど、でも一介の大学生にして遊び過ぎだし、まさか掛けで飲んではいないだろうが。



「百合、何か欲しいモンある?」


突然、横からジュンが聞いてきた。


いきなり何なのかと思いきや、



「ホワイトデーも近いし。」


確かに、一応バレンタインにチョコをあげたけれど、それはお返しを期待していたわけではない。


と、いうか、欲しいものなんて思い浮かばないのが実情だ。



「良いよ、そんなの。
普段お世話になってるし、お礼みたいなもんだから。」


「いやいや、俺こそいつも安い酒飲んでくれてありがとう。」


「嫌味かっての。」


ジュンが笑うと、いつも口元のピアスが煌く。


この男が他の客にどう接しているのかなんて知らないけれど、少なくともあたしの前では、おばあちゃんに見せるのと同じ顔で笑っている。



「まぁ、今度また飯行こうぜ。」


彼はもう、一緒に帰郷しようとは言わない。


あの家庭教師とのことや、全てを話しているわけではないけれど、でもあの日のことを気にしてくれていた。


決して言葉に出して心配するわけではないけれど、それがジュンという男だ。