「百合りんのこと初めて見た時、生きるの下手そうな子やなぁ、って思ったよ。」


ふと、真綾は真面目な顔をしてこちらを見た。



「懸命やからこそこんな街では空回りして、濁ったもんの中で苦しむねん。
何もかも諦めた振りしてるだけで、ホンマは心のどこかで希望の光を探してて。」


「…何、言って…」


「愛されたことのない子の目やと思った。
やからホンマは目一杯愛されたいんやろうなぁ、って。」


内側を覗かれている気がして、少し怖い。


壁を作らなければ生きていけなかったあたしの心を、全て陽の下に晒されているかのよう。



「自分を卑下したらあかん。
同じ生きるんやったら、笑ってた方がずっとえぇねん。」


光が射していた。


けれどもそれは、とても眩しくて、だから今のあたしでは手を伸ばすことが叶わない。


真綾はあたしにとって、ずっとそんな存在だった。



「もしもうちが死んでも、笑ってほしい。
葬式で泣いてほしくなんかないし、そしたらうちは成仏も出来へん。」


「やめてよ、そんなこと言うの。」


「生きようとした証としての“死”やから、うちは死んでも後悔せぇへんよ。
やから可哀想やって泣かれるの、嫌やねん。」


縁起でもないことを、決意した顔で彼女は言う。



「うち、今も昔もこれからも、胸張って生きるで。
いつ死んでも悔いを残さんためにな。」


腕時計を見た真綾は、じゃあ行くわ、と言って立ち上がった。


頑張れだとか、きっと大丈夫だとか、そんな安っぽいことは言えない。


ただ、生きていてほしかった。


例え胸に傷を残しても、笑いながらそれを見せてくるような彼女の姿を願っていた。


冬晴れの一日だった。