確か香織が、詩音さんは一度別の街にいたとか言っていた。


真綾は創業当時からいる一番の古株だし、引き抜かれてこちらにやってきたというなら、関西弁の理由も頷ける。


けれど、あの人が風俗をしていたなんて。



「あの頃の詩音さん、とにかくすごかったで。
うちらがひっくり返っても追い付けんくらい、不動やったわ。」


思い出すように感嘆して、真綾は言う。


確かにあのルックスだし、その言葉を嘘だとは思えないけど。



「何かな、金が必要やって言うてた。
理由は知らんけど、もしかしたら借金かもなぁ。」


詩音さんもまた、何かを抱えているのだろう。


非情になり、女の子を店に繋ぐこともまた、金のためということならばわかる。


それは決して肯定しているわけではないけど、でも、誰かの生き方を否定は出来ない。



「うち、詩音さん好きやで。
それに、病気治すのもあの人との約束やから。」


あたしは詩音さんの、人を見下すような瞳しか知らない。


でも真綾は、もっと別の彼女を見てきたのだろうし、憧れるように言う。



「きっと詩音さんもな、こんな仕事好きでやってるわけちゃうと思うで。
人間やし、ちゃんと心があるんやから。」


でも、と彼女は言う。



「金は寝転がっててどうにか出来る問題ちゃうやんか。」


「だからこんな街に自ら染まった、って?」


「悲しいけど、多分そうや。」


人はそれぞれ、理由があってこの街にいる。


ここがあたしの、自由と引き換えに暮らす場所だ。