事務所に戻ると、香織の姿があったことにはひどく驚いた。


年末の繁盛期を過ぎて以来、とんと見かけなくなっていたので、クビになったとばかり思っていたのに。


嫌な予感がして、あたしは舌打ちを混じらせる。



「ジロー、ちょっと良い?」


更衣室に彼を呼び付けた。


ジローは無表情を貫いたまま、「何?」と時間を気にする素振りを見せる。



「香織のことだけど。」


「何でいるのか、って?」


話が早いことには感謝するけれど。


別に辞めてほしいわけでもないが、でもこの仕事で稼いで馬鹿男に貢ぐくらいなら、いっそクビでも良いと思う。


あたしは少し苛立ちながら、煙草を咥えた。



「前に仕事すっぽかした時、クビだって言ったんだ。
けど、香織が辞めたくないって頭下げて。」


「…嘘でしょ?」


「ホントだよ。
もうシンナーも止めるし、真面目に働くから、って。」


あのプライドの高い香織が?


確かにこの仕事をして、今更普通の時給では働けないだろうけど。



「条件付きってやつ。」


ジローは壁に寄り掛かり、宙を仰ぐ。



「今度サボったり、変なモンしてたら後はない、ってので。
給料下げるので交渉成立、ってね。」


まるで一仕事終えたように、彼は言う。


あたしは心底苦々しさにさいなまれ、煙草の煙を吐き出した。