「なぁ、今すぐじゃなくて良いし、この町で無理にとは言わねぇけどさ。」


背中を向けたまま、ジュンは言う。



「やっぱいつか、どこでも良いからこんな景色の中で、百合と暮らしてぇな、って。」


身を切る寒さの風と、相反するあたたかさの繋いだ手。


言葉さえも返せない。


ジュンのことは好きだし、きっとあたしはそうなったって良いとも思ってる。


けれど、約束は出来なかった。



「あ、あそこ昔は駄菓子屋でさ。
万引きしてげんこつ喰らったんだよな、俺。」


振り返ったジュンの顔は、いつもの笑顔に戻っていた。


安堵と罪悪感に支配される。



「戻ろう、ばあちゃんが待ってる。」


クラクションも、怒声も、喧騒もないのどかな場所。


きっと夜は月も星も綺麗に見えるのだろうな、と思う。


瑠衣は今、あの街で、その瞳に何を映しているのだろうか。



「見ろよ、これ!
俺、携帯の電源切っちゃった。」


真っ黒な画面のそれを見せて笑いながら言うジュンに、



「ちょっと、お客からの電話やメールあるんじゃないの?!」


「だからだよ。
百合ちゃんとの愛の逃避行を邪魔されたくねぇじゃん?」


おどけたように言われてしまった。


きっとそれは、気まずい雰囲気を壊そうとした彼なりの優しさだろう。


だからまた、あたしは甘えてしまうのだ。