「あそこんちの犬、すげぇ吠えるから!」


観光案内の人みたいに、ジュンは目を輝かせて色んなことを教えてくれる。



「んで、あっちの家のガキが腹立つヤツでさぁ!」


「詳しいね。」


「俺、昔ばあちゃんちで一時期暮らしてたからな。」


その言葉に、あたしは戸惑うことしか出来ない。


けれどもジュンは、事もなさげに思い出したように話をする。



「うちの両親、喧嘩しょっちゅうでさ。
いっつも離婚するとか騒いでどっちかが家出たりで、だからばあちゃんが見かねて預かってくれたんだけど、今はホント感謝。」


それが、彼が実家に帰らずここにばかり来る理由だろう。



「友達と喧嘩した帰り道もさ、ばあちゃんが俺の手を引いてくれんの。
怒ったりしないし、ちゃんと話も聞いてくれてさ。」


それに随分救われたのだと、ジュンは言う。



「だから俺、ばあちゃんに恩返ししたくて。
いっぱい稼いで、あの家もバリアフリーにして、好きな畑いじりだけしてても暮らしていけるくらいさ。」


「そういう夢、何か羨ましい。」


「百合は?
可愛いお嫁さんになりたーい、とかさ。」


問われ、あたしは首を横に振った。


ジュンは肩をすくめる仕草を見せ、その場にしゃがみ込んで川を覗く。



「お前はやっぱ、あの街にいるべきじゃねぇな。」


呟きが、風に消えた。


それはつまり、瑠衣との無意味な関係のことを言っているのだろうか。


小指の指輪は今日も冷たい。