*シルヴァ*

分かる。
暗闇の道が、まるで手に取るように分かる。

おいで
人の子よ

不気味な歌に引き寄せられるままに、走る。至るところから出ている樹の根に足を捕られそうになるのをぎりぎりのところで躱して、地の底へと続く階段を、下って行く。

目指すは、声の出所。
何故かは分からないが、そこにエルザがいるという確信が持てた。そして、そこがひどく危険だと言うことも。

ぷつん。

耳元で何かが切れる音と、足元で何かを踏んだ感覚。

一気に、音が溢れた。恐らくは結界か何かの呪(まじな)い一種に踏み込んだのだろう。

破壊力すらありそうな、凄まじい喚声。狂気じみた歓喜の叫び声。私は、ひたすらに走った。

一気に視界が開ける。

天空を思わせる、巨大なドーム。そこに集まった女性達は皆、壇上のリフィエラとエルザへ視線を集中させている。

リフィエラに首を掴まれ、高く持ち上げられたエルザはぴくりとも動かない。

遠く離れているはずなのに、まるで傍で見ているかのように彼女達の髪の毛一本に至まではっきりと見えた。

ここは、魔法空間なのかも知れない。そう悟った途端、全身に縛りつけられるような痛みが奔った。

リフィエラのグリーンの瞳が、無機質にこちらを見ていた。

私が動けなくなったのを確認すると、彼女はすぐに視線をエルザへと戻す。

「…何と、この者、男ではありませんか。」

リフィエラはエルザをまじまじと見ると、その予期していなかった事態に眉を寄せた。

「丁度良いわ。これで力のバランスが良くなるでしょう…」

そう呟いくと、少々乱雑にエルザを床に下ろすと、リフィエラは膝をついて彼に顔を近づけて行く。

全身が、震える。
何か、恐ろしいことが始まる。

叫ぼうにも、金縛りのように声が出ない。

(だめ、止めて……!)