しばらく下っていくと、暗闇の底に明かりが見えた。
それが、この暗闇の終わりであることは明らかだった。

駆け下りていくと、一気に視界が開けた。ひとまず出口の壁に身を寄せ、隠れる。

巨大なドームのように半円形に広がった空間には、大勢の女たちが集まり、ひしめいていた。

誰もが呆けたように恍惚とした表情を浮かべ、一人としてエルザに気がつく物はいない。

彼女たちの視線は、ホールの奥で段のように高くなったところに鎮座している女神リフィエラ一点に向けられていた。

(どうして女神リフィエラが、ここに…)

耳鳴りは、増している。
いつしかそれは、意識を集中しないと持っていかれてしまいそうな強い頭痛に変化していた。

不意に、一人の若い女がするりと段上に進み出た。ホール中の熱っぽい空気が増す。

女は踊るようにくるりと一回転すると、崩れ落ちるようにリフィエラの足元に跪いた。

歓喜のようなどよめき。そして耳が痛むほどの静寂が訪れた。

リフィエラは、女の顎をすく上げると

その唇に

自らの唇を重ねた。

(うそ……)

誰もが身じろぎすらしない。完全なる無音の中、こんなに離れているのにもかかわらず、二人の唇が離れる水っぽい音が、耳元で聞こえるようだった。

女は、枯れ木が音もなく倒れるようにぱったりと倒れ、それきり動かなくなってしまった。

別の女が、それを脇の方へと運んで行く。会場の熱っぽいざわめきが、再び蘇った。

その時、段上にいたリフィエラがこちらへ顔を向けた。目が合う。

「い…!?ぁ…」

急に頭蓋をわしづかみにされたような激痛が走り、エルザはその場にうずくまった。

耳鳴りが、今度ははっきりと言葉の輪郭を持って襲ってきた。最早それは耳鳴りなのか頭痛なのか、判別すらつかない。

おいで
人の子よ

脳内を痛みが蹂躙していく。意識が、白に染まっていく。

こちらへ来なさい

激痛。ついに、エルザはその意識を手放した。