そして、所はキリュウの研究室前に移る。ブラッドは、一切の気配を殺して聞き耳を立てていた。

シオナが担当するのは隠密調査や隠密諜報と言ったものが多く、警察とは言うものの、その仕事は、隠れたり欺いたりすることが大半だ。今回も、不法侵入に盗聴…と警察と言うより暗殺者の様だと、ブラッドは内心苦笑した。

研究室の中では取り立てて大きな動きはないようで、先刻から紙にペンをはしらせる音が絶えない。

(こりゃ長期戦だな……)

ブラッドが内心ため息をついた。その時だった。

カタ…ン

ペンを置いて立ち上がる音の後、中の気配は消えてしまった。

(ん…?)

その後、しばらく注意して聞き耳を立ててみたが、物音はおろか、気配すら消えていた。こちらに向かって来る様子もない。

(消えた…?)

僅かな苛立ちを覚えながら、静かにドアを開く。

目の前に広がっていたのは、やはり誰もいない部屋だった。

室内の照明は消されており、暗く広い研究室のあちらこちらに直立する円柱の水槽は、下からの小さなライトに照らされており、それが中で眠る子供達をぼんやりと浮かび上がらせていた。

その様子にぎょっとしつつも、ブラッドは息を詰めて部屋の奥へと向かう。

不意に、水槽の群れが終わり、部屋の突き当たりに大きなコンピュータ画面と、書類で埋め尽くされたデスクが現れた。

壁一面に設置された巨大なスクリーンの灯りで、そこ一帯だけは薄明るくなっている。

(何か…手掛かりがあるかも知んねぇな。)

ブラッドはするりとデスクへ歩み寄ると、一番手近にあった書類に手を伸ばす、その瞬間、デスクの上にあった書類の山は一斉に火の山となって燃え上がり、次の瞬間にはあっという間に消滅してしまっていた。

「それは、データを視覚化した物に過ぎないが…貴方ごときが触れて良いものではありませんよ。」

不意に、室内にキリュウの声が響いた。次いで、スクリーンにキリュウの顔が映る。

「全く…こうもうろちょろされては、たまったものじゃない。黙ってそこに居てもらいましょうか。永遠にね。」
「ちっ……!」

ブラッドはすぐさま駆け出したが時、既に遅し。

が…ちゃんと言う鈍い音と共に、部屋の全てのドアは塞がれた。