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静寂が支配する暗闇のなか、ある巨大な研究所の、ある研究室の前で、ブラッドは息を潜めていた。

中からは、コンピュータの機械音と紙を捲る音が漏れ、そこに人がいることを証明している。

ブラッドは、調査専用の集音機を装着し、耳を澄ませる。

─時は数刻前に遡る。

エルザと別れたブラッドは、その足でキリュウの研究所へと向かった。

今回の不可思議な出来事には多かれ少なかれ彼が絡んでいると睨んだためである。

キリュウの研究所は、リフィエラの病院からかなり近いところにある。

正確に言えば、リフィエラの病院、つまり、大樹の周りは小高い丘のようになっており、キリュウの研究所はそのふもとにあるのだ。

たどり着いたそこは、異様な空気に包まれていた。

表立って目立った異常は見受けられないのだが、その研究所が纏うのは、どことなく陰鬱な空気。

中に入ってみると、どこもかしこも完璧な純白で統一された室内は静かで、受付で面会を申し込んだが、なぜか今日から2日間は誰であろうと面会は不可能だと言う。

明らかに、怪しい。

問い詰めてみても、勿論受付嬢が口を割るわけもなく、そんな訳でブラッドは得意の強行突破に打って出た。

研究所に忍び込んだのである。

本来ならば、こんなリスクのある行為は極力避け、穏便に様子を見つつ事を進めるのだが、今回は不可思議な事件が続くばかりで手掛かりらしい手掛かりはひとつとして見つかっていない為、ブラッドはひとつ賭けに出てみたのだ。