「……それは、」

「全知全能の女神は、なぜ私の妻と娘を救わなかったんです。

ナキとアンナは、それほど救うに値しない様な人間だったのですかね。

…だったら私を殺せば良かったものを。」

「…人間の生死は、私たちが左右できるものではありません。」

「そうですか…どうりで悪人がのうのうと生き残り、何の罪もない女と子供が死ぬような世の中なわけだ。」

「………。」

「女神に見捨てられたから自分でやっているだけですよ。理由なんて単純だ。神の代わりに、私には科学があった。それだけです。」
「…しかし、」

「もう良いでしょう。私だけじゃない。

人工だろうがなかろうが、子供を欲している人間は山ほどいるんだ。

これは、もう貴女の問題じゃない。私達人間の問題なんですよ。

お引き取り下さい。女神リフィエラ。約束通り、計画は明日の夜決行します。

貴女ははじめ、この研究に全面的に協力すると契約書にサインをしたわけですから、ここに来て今さら嫌だなどとは言わせませんよ。

嫌ならせいぜい、私に天罰を与える力を養うことです。」

彼の瞳は、ハヤクカエレと、ただそれだけを告げていた。

部屋に満ちた憎悪の気に、リフィエラは気が遠くなりそうだった。

どうしても分かり会えそうにない悲壮感と共に、何かとてつもなく悪いことが起こりそうな予感がした。

しかし、今は怒気に急かされるままに、彼女は研究室を後にする他はなかった。