***

久しぶりに足を踏み入れたその研究室は、相変わらず薄暗かった。

ここへ来るのは、Hannaを目覚めさせて以来だ。

脳裏にはあの子の悲しげな瞳が、今でも鮮やかに蘇って来る。

天から降り注いだ光の様に、暗い部屋に並んで立つ巨大な円柱型の水槽の中では、ヘソから出るチューブで機械と繋がれた子供達が眠っている。

「命」を吹き込めば、直ぐにでも目覚めるだろう。

未だ目覚めぬ彼らの水槽を抜けると、開けた場所に出る。

巨大なマザーコンピュータを操る彼の、逆光で照らされた後ろ姿が目に入った。

「…どうされました。」

声をかけずとも、キリュウはこちらの存在に気が付いていたようだった。

何か手違いでもあったのだろうか。

今日の声には、いささか焦燥の響きが含まれているように感じられた。

「…キリュウさん、やはり、止めるべきではありませんか。」

「………そう来ると、思っていましたよ。」

「人が命を作り出す手助けなど…私には…」

「できない、とでも?」

返答に困り、リフィエラは思わず悲しみに顔を歪めた。

「なぜなんです…何故こんなことを………」

「貴女には、分かるまい。」

(……いいえ…分かります。)

キリュウのデスクに目をやれば、いつもと変わらず愛くるしい笑顔でこちらに笑いかける少女の写真がある。

「アンナちゃん…でしたか。」

「ええ、それが何か。」

「…逝ってしまった命は、造れませんよ…キリュウさん。」

途端、彼の表情が変わる。そこからは、ありありと怒りの感情が読みとれた。

「貴女方女神が、救って下さらなかったからですよ。」