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「あ?炎の中で人が踊ってて、薬屋の禿げオヤジが誰かにぶっ殺されて、挙げ句にそこにキリュウがいただぁ?」

「ボス、もう少し静かにお願いします。」

数時間後、エルザはやっとのことで病院の喫煙所で煙草を吹かしまくっていたブラッドを発見した。

彼のあまりの不機嫌っぷりに、喫煙所にはブラッドの他には誰一人としていない。

エルザはできるだけ彼の逆鱗に触れないように話をしたが、あまり意味はなかったようだ。

「ざけんな。これ以上話をややこしくすんじゃねえ。」

「ボス、お願いだから落ち着いて下さい。いくらシルヴァちゃんが心配だからって…」
「うるせえ。」
「失礼だけど…ボス、グレイちゃんとシルヴァちゃんを重ねちゃ駄目よ。」

グレイ。

その名前を出した途端、ささくれだっていた空気が、一気に鎮火したようだった。

「…分かってる。

グレイは…とうの昔にいねえ。」

寂しげにそう呟いたブラッドの顔は、平生通りの「できるボス」の顔に戻っていた。

「…で、どうするつもりなんだ。エルザ。」

サングラスに隠した2つの紅の瞳が、難しげに細められた。

どうやら彼がやることは既に決まっているようだ。

ならば、自分のやるべきことも決まっている。

エルザは、ゆっくりと立ち上がった。