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(あれは、何だったのかしら……)

昨夜の真相を確かめるべく、エルザは再び、あの焼けた森に来ていた。

火はすっかり消火され、今は地元警察によって現場研修が行われている。

勿論、エルザも警察なのでここにいても何の問題もない。

今のところ、放火らしい後や不審なものは一切発見されていなかったし、

エルザ自身、怪しげなところは隅々まで自らの目で確かめたが、何の手がかりも掴めていなかった。

ついに、焼けた森を一回りして、何度見たか分からないスタート地点に戻って来てしまった。

(…駄目ねぇ。)

ため息をひとつ、エルザは渋々森を出た。

駄目な時は、大概いくらやっても駄目なものである。

駅に着くと、駅前にある大きな薬屋の前に人だかりができていた。

興味本位で近づいてみると、どうやらバーゲンの類いではない雰囲気だった。

生憎、かなりの人だかりで、店内の様子は伺い知れない。

「すみません、何かあったんですかぁ?」

傍にいた野次馬に声をかけた。誰かに話したくてウズウズしているであろう、老夫人に、だ。

「なんかねぇ、殺人ですってよ、殺人。」

「…殺人?」

「ええ、ここの薬屋さんね、国長さんのご実家なのよ、それで…」

「誰が、殺されたんです。」

「…国長さん、らしいわよ。」

「うっそ……」

その時、人垣を割って担架が運ばれて来た。

横を通った担架に被せられたシーツの隙間からエルザが見たのは、

初めて病院に行ったときに待合室で見かけた、あの禿げた中年男性だった。

そして、その後について薬屋を出てきた男性とその担架は、吸い込まれる様に救急車に乗り込んで行った。

「あれって……」

間違えようもない。

男は、キリュウ・レナウディオ、その人であった。