「失礼しまス」

小さいながらも、彼女は大人顔負けのスピードでテキパキと作業を進めて行く。

さらさらとカルテをつけると、何の違和感もなく私の足の土を拭ってくれた。

その感じに、私は逆に違和感を覚える。

どうして、何も聞かないのだろう。まるで、この状況が当たり前のように…

「シルヴァさん、」
「…はい?」
「この樹が綿毛をつけることを知っていマスか。」
「樹って…この御神木が?」
「そうデス。」

「へえ、知りませんでした。綿毛をつける樹なんて初めて聞きましたよ。」

「ちょうど綿毛がつくのハ今の時期なのデスが、ここ10年ほど綿毛はついていマセン。」


この巨大な樹が真っ白な綿毛で一杯になる様子は、なかなか想像しにくかった。
見てみたいものだけど、つかないものは仕方がない。

「お腹ハ、まだ痛みマスか。」
「はい、まだちょっと…」
「良くなりたければ、この街の水を飲まないでクダサイ。」
「え」
「良くなりたければ、」
「聞こえてます…どうしてです。」
「ここの水ハ、命に良くないからでス。」
「命…に?」

…良く分からないことを喋る子供だ。

私は少々困惑しながらも、看護師に渡された体温計を脇に挟んだ。

遠く街の方では、ここ二、三日で聞きなれてしまったサイレンの音が鳴り響いている。