*シルヴァ*

目を覚ますと、身体中に鈍痛が走った。質の悪い筋肉痛のような痛みに顔を歪めると、さらに質の悪そうな、不機嫌丸出しのブラッドの顔が目に入った。

病室の椅子に腰掛け、脚も腕も組み、眉間には、物凄い皺が寄っている。

「…てめえ、夕べ何してやがった」

あまりの低音に、私ははじめ、それがブラッドの声だとは到底思えなかった。まるで獣の唸り声だ。

「何って…寝てましたけど…」

眉間の皺が深くなる。

「それなら、どうしててめえの足は土だらけなんだ。」

…そんなこと言われても。
本当に、何も覚えていないのだ。あるのは、またぶり返してきた腹痛と、全身の鈍痛だけ。しかし、ブラッドの言う通り、確かに私の足は土で汚れていた。

「どうした、答えろ。」

ブラッドのあまりの形相に、私は毛布の隙間から彼を覗くのが精一杯だった。彼は、全身から今にも飛び掛かって来そうな怒気を放っている。

「…本当に…何も覚えてないんです…」

震える声をやっとの思いで絞り出したちょうどその時、病室のドアが開いた。ひょっこりと顔を覗かせたのは、おかっぱ頭が可愛らしい子供だった。

「検温と着替えの時間でス。ブラッド様はご退出くだサイ。」

ブラッドは、盛大に舌打ちをすると、ナース服に身を包んだその子供と入れ替わるように病室を出て行った。

思わず、安堵のため息がこぼれてしまった。