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夜闇の中で、目も眩むような大火が、舞い狂う龍のように燃え盛っている。

歩みを進める毎に、肌に吹き付ける風が熱を帯びて行くのがわかった。光々と闇に浮き上がる灼熱は、血のように赤い。

火元は、駅のごく周辺にこんもりと生い茂った森林地帯だった。

近代都市だけあって、夜になっても人通りが多いライラ駅は、人々の悲鳴で一杯だった。

現場は、まさに騒然としていた。
我先に炎から逃れようと無秩序に逃げ惑う人、人、人の群れ。

エルザは敢えてその流れに逆らい1人火の元へと向かっていた。

空気は、人々の騒めきと戸惑った悲鳴で共鳴している。

抜群のフットワークで突進してくる人々を交わし、勢いを増す炎へと接近を試みる。

炎の拡大速度が、尋常ではない。

最近、この街には火災が異常に多い。それに加え、この火の勢い。何者かの、手が加わっているとエルザはにらんでいた。


火を消す術は一切身につけてはいなかったが、それでもここまで来たのは、少しでもその「異常」の原因を見定めないことには、どうにも己の心が収まりそうになかったからだ。

ごう。と、肌を焼く灼熱の風が吹きつける。

思わず、足が止まる。

(…っこれ以上は、)

炎は、もう触れられそうなほど近くにある。人間には、ここまでの接近が限界のように思われた。

小さな森を、血の赤に呑み込んで焼き尽くす、業火。

あまりのまばゆさに、目すら開けていられない。

ふと、彼女は、見た。

炎の森の中に、

人が、いる。

背丈は、距離感が掴めない為に上手く見定められない。エルザは子供か老人が逃げ遅れたのかと思った。

しかし、違った。

その人間は、炎の中で

踊っていた───