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闇の中を駆けるのは、いくつになっても慣れないものだ。

ブラッドは、思う。

真っ暗な中にいると、自分が弱く非力な生き物であることをまざまざと見せつけられる。

誰に?

世界に、だ。

鼓膜に響くのは、自分自身の足音だけ。

それが向かう方向が、正しいのかそうでないのか、それすら見分けがつかなくなる。

人は、闇を照らす為に火という光を手に入れた。

神話の神々が、人間に火を与えるのを渋る話があったが、渋ったその理由が、今なら何となく分かる気がした。

光を手に入れた人は、きっと傲慢になってしまうのだ。

た、た、た、

ブラッドの耳は、前を行くシルヴァの足音を確かに捉えていた。

一体、彼女はどこへ向かおうというのか。

大樹は、さっきからずっと左側にある。このままではただ大樹の周りを一周するだけだ。

不意に、足音が止んだ。

次いで、シルヴァの気配は消え失せていた。

(しまった、)

完全に、見失った。