……



沈んでいた意識が急浮上して、目を開く。

僅かに身動ぐと、窓べりに腰掛けた女性が目に入った。

「あら、起きたわね。」

懐っこい笑顔をむけられて、私は少しばかり動揺した。

見知らぬ人に微笑まれることにはあまり慣れていなかった。

知らない景色に、知らない女。

寝ぼけた頭は上手く働かず、未だに夢の中にいるような気分だ。

「何の夢見てたのかしらねぇ。」

「え。」

「あなた、泣いてる。」

「……ぁ、」

気がつかなかった。いつの間にか、頬を滑り落ちていたのは、涙だった。

さっきの、夢のせいかも知れない。

彼女は、笑ってハンカチを差し出した。

その笑顔があんまりに柔らかなので、ついに私は何の抵抗もなくそれを受け取った。

優しい香りがする。

ふと、我に返った。

どうやら私はベッドに寝かせてもらっているらしかった。

上半身だけ起き上がる。

不思議なことに、先ほどまで胸に巣食っていた吐き気は、嘘のように消えていた。