「…ブラッドさんですよね、バルベール王子を射ったの。」
「……。」

ため息が聞こえた。
やはり、そうなんだろうか。図星なんだろうか。

「…どうだろうな。」

いや、こっちが聞いてるんだってば。

ブラッドが煙草に火を着けた音がした。

気まずい時が流れた。

ヤバい、非常事態だ。
どうしたらいいんだろう。
お金も貰っちゃったし。
でも、いくら貧乏しても人殺しになんてなりたくない…!
もしブラッドが本当に暗殺者だったら、一刻も早く逃げなくては。

そんなことを必死で考えていると汽車はいつの間にか国境の辺りにいるようだった。

すっかり春になったグリーンの草原を通りすぎる時、ふと、2人の若い男女が、荷物を持って草原沿いの道を歩いているのが見えた。

恋人だろうか、遠目から見ても何となく幸せそうだった。

(…ん?)

何となく、その2人に見覚えがあるような気がしたが、汽車はあっという間に進んで、見えなくなってしまった。

また、同じ景色が流れだす。

「…ブラッドさん、」
「…ぁ?」

振り返ると、煙草の香りが鼻腔をくすぐる。

ブラッドの2つの紅い瞳が、こちらを見ていた。

「私は、警察ですからね、それ以上のことはやりませんからね。」

ブラッドが、にやりと笑った。
お、以外と格好良い。

「報酬弾まなかったら、即止めますからね。」
「…ふん。」

はい、はい。と気だるそうな振る舞いも、何となく不快ではなくなった。

「…ブラッドさん、」
「ん?」

「車内、禁煙ですよ。」

こうして、私は晴れてグレスト国家警察特殊調査部隊シオナの隊員になった。


窓の外には、一面の春が広がっていた。