ジェシカは、膝を抱えて目を閉じた。

この生命を終えた愛しい人を残して、間もなく、この森は生命の息吹で満ちるだろう。

人はいつしか自分たちのことを忘れ、国は新しい王が、軍は新しい長が治めるだろう。

自分たちではない、他の誰かがそれをするのだ。

現実は、自分たちがなくなっても寸分違わず動き続ける。

(…バルベール様。)

ジェシカは、重い腰を上げた。

見ると、バルベールはやはり眠ったままだった。

しかしながら、瞳を閉ざすと少し幼く見えるその顔は、優しい時を過ごしたあの頃と少しも変わっていなかった。

「信じて下されば良かったのに。」

(私が、ずっと傍にいることを。)

ジェシカは、降り注ぐ木漏れ日の中で眠るバルベールにキスを落とした。

─終わりにしましょうか。

どこかから、そんな声が聞こえた気がした。

ふと、ジェシカの指先に冷たいものが触れた。

春の、小川の中に手を浸したようなその冷たさは、見れば、彼女が掌をついたバルベールの胸から溢れているようだった。

ジェシカは、躊躇なくバルベールのシャツをくつろげる。

はっと、息を飲んだ。