「ブラッドさーん、」

遠い背中に声をかける。

少しは止まれよ!!文句言いたいんだから!

やっとのことで彼に追い付くと、ブラッドは歩みを止めた。

「見ろ。」
「え?」
「下、だ。」

下─丘の下。

急に、地を揺るがす強い風が吹いた。

眼下の街を覆っていた灰色の水っぽい雪の下から、所々若い緑が顔を覗かせていた。

そして、私の足元には黄色い小さな花。


ローラ王国に、春が来ていた。


遠く街からまだ聞こえる小さく喜びに満ちた騒音が、まるで春の来訪を祝う歌の様だった。