日は、すっかり落ちた。

漆黒の夜闇の中、王子バルベールは、小さく息を呑んだ。

月も星もない、静かな雪の夜。

どこからともなく、闇からにじみ出るように現れた白い女の裸体が、艶めかしく上等なシーツの上で踊る。
今日も、その時間が来たのだ。

「こんばんは。」

ぞくりと、肌があわ立つ程に透き通った声が歌う。

バルベールは、ベッドの縁にゆっくりと腰を下ろした。

悩ましげな曲線を抱く白い躰は、仄かなステンドグラスのランプの灯りに浮かび上がり、妖艶な影をまとっている。

「今日は、何があった?バルベール。教えて。」
「…ジェシカを、クビにしてしまったよ。」

こちらを覗きこむ、アイスブルーの瞳。

今日も、いつものように、全てを話してしまいたくなる。

「私は、自分が変わって行くのが怖い。恐ろしいんだ。アイシェ。ジェシカも、きっと私の元から去って行ってしまう…だから……」
「先に、手放したの?」
「そうだ。」
「…可哀想。」

女─アイシェの冷たく細い指が、そっ…とバルベールの頬を滑る。

自らの頬を王子の頬すりつけ、甘やかな吐息で彼の耳をくすぐる。

「可哀想に。バルベール。皆が、あなたから離れて行く。あなたを裏切る。傷つくのは、いつもあなたばかり…」
「そうだ。皆が私を裏切る。父も部下も、皆が…」
「でも、大丈夫。今日も私が消し去ってあげる。」

互いの顔は唇が触れる程に近い。

女の鮮やかな桃色の唇が、美しく歪んだ。

「あなたの悲しみを、頂戴。」

アイシェとバルベールの唇が重なる。

ついばむようなくちづけは、徐々に深くなり、熱を孕みだす。