じり…
手にした松明の火が鳴る。
通りかかった部屋から、国王の死を悼む祈りが聞こえて来た。

国王は、原因不明の病で5年前から床についていた。
床に着くとすぐ、おぞましい暴言を吐くようになった。

魔物の仕業を疑い、多くの祈祷士を呼び寄せたが、無意味だった。

(バルベール様…。)

バルベールが変わり始めたのも、5年前。
春が訪れなくなったのも、

5年前から。

(…どうして。)

暗い廊下の角を曲がる。

視界が開けると、長い廊下の向こう側の角に、白い人影が曲がって行ったように見えた。

侵入者かも知れない。
ジェシカは、走り出す。

真っ暗な長い廊下の闇の中を、ひとりっきりで走った。

角を曲がってみたが、あの人影はいなくなっていた。

不意に、灯りに行き当たった。

見ると、それは大臣達(何人いるのか、ジェシカにもよく分からない。)がよく集まっている談話室だった。

声が、聞こえた。

(いやぁ〜、しかし、長かったですな!)
(毒を飲んで5年生きられるなんて、奴の体はどうなってるんでしょうかね。)
(しかし、最期は実に滑稽でしたな、「バルベールを連れて来い!殺してやる!!」)

1人が下手な物まねをすると、どっと下衆な笑いが起こった。

(まぁ、そう焦らずとも、近いうちに王子もあちらに行く事になるでしょうがね。)
(ローラに王族がいなくなったあかつきには、我らがこの国の支配者ですぞ!)

歓声が上がる。

国王の暗殺。
王子の暗殺計画。

大臣達の縄張りは、きっと自分が想像できないほど広く、複雑に、巧妙に、ローラ中に張り巡らされているのだろう。

自分1人の力では、もはやどうにもならないところまで事態は進んでいる。

ジェシカは、そっとその場を後にした。

一体誰に怒りをぶつけたら良いのか、もう、ジェシカにはわからなかった。