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そこまで書いて、私はペンを置いた。

大きく椅子の上で伸びをして、がちがちに固まった首と肩の筋肉をほぐす。

「あの日」から一体どのくらいの月日が流れたんだろう。

遠い昔のようにも思えるし、つい昨日のことのようにも思える。

あの日から、色んなことが変わった。国も、街も、人も。

私は、ブライトから首都グレストの校外に小さな家をもらって、物を書いて暮らしている。

現国家元首として国の先頭に立っている彼からの、罪滅ぼしのつもりか。それとも真実を知る私を監視しているつもりか。

良くわからないけれど、とりあえず、色々考えないようにすれば、

小さな庭にアンティーク調の作りが可愛らしい隠れ家のようなこの家は、とても居心地が良い。

もうすぐ、3時だ。

来客がある時間なので、私は席を立つ。お茶を沸かしてあげよう。

もう一度背伸びをしながら、私はテーブルの隅に置いたままにしていた手紙を手に取った。

「シルヴァちゃんへ

ガロ・ヴィスタークより」

可愛いピンクの封筒には、ピンクのペンでそう書かれていた。

ガロ・ヴィスターク。ブラッドの部下エルザさんからの手紙だ。

ブラッドと共に、グレスティア各地を回って、今は生活に困っている人々の現状調査だか…そんな感じの隠密活動(?)に励んでいるはずだ。

ひとり暮らしの私を心配してか、こうして私が知らないような国からもちょくちょく手紙をくれる。

そこには、今回の活動が一段落着いたから一度首都グレストに戻ると書いてあった。

きっとブラッドを連れて、遊びに来てくれるのだろう。

異国からの便りに頬を綻ばせていると、玄関の呼び鈴が鳴った。

「あ…まだお茶入れてないや、はぁ〜い。」

急いでコンロに火を付けて、私は小走りで玄関へ向かう。