すると、刺の生えた茨の蔓がどこからか伸びてきて、彼女の体を捉えた。

「この世界は、私の世界だとグレスティアは言った。…なのに、お父さんもお母さんも、どこにも居はしない。」

締め付けられたところには刺が食い込み、そこから血塗られた肉が覗く。

唇からは、何色とも表現できない毒々しい色の液体がこぼれ出して来た。

ぼとり。

滴る。

おぞましく、それは、

あまりにも醜い姿だった。

だが、果たして誰のためにこんな姿になってしまったのか、分かっている今、逃げ出すわけにはいかなかった。

「シルヴァ、済まなかった。お前の人生を壊したのは、確かに…俺だ。」

真っ赤に塗りつぶされた瞳が、はっきりと恨みを持って、彼を睨みつけていた。瞬きもせずに。

そして、笑った。

浅ましく、卑しく。

「ふふ…ふふふ…そんな言葉なんて、聞きたくもない。あんたがいくら謝ったって、私が愛したものは…もう…帰っては来ない。」

血の涙が、溢れだす。

「どうしようって言うんだ!私はグレスティアに躰をとられる代わりに、この世界をもらった!

ここは…幸せだ。苦しみも、痛みも、何もない。

ここにいられれば、私はそれで十分なのに…十分なのに、ようやく苦しまずに済むのに!

なのに!どうしてわざわざ追いかけて来た!?」

叫ぶたびに、酷い臭いの唾液が飛ぶ。

「またなの!?また、あなたは私の大事な世界を壊しにきたの!?」

嗚呼、彼女はこんな苦しみをずっと身体に飼っていたのだ。ある日突然押し付けられて、それを手放すことも、逃れることも許されずに。

「シルヴァ、お前は、もう帰りたくないかもしれない。だが俺は…俺は、」

お前に、生きていて欲しい。

「ふざけるな!!!!」

手の形をした蔓。いや、蔓に捕われた彼女の手だろうか。

それが、ブラッドの顔面を少しの容赦もなく殴りつけた。

信じられないほどの、衝撃。灼熱に良く似た激痛。目の前に紅い色をした星が飛ぶ。

「何を言うかと思えば、それか!馬鹿かお前は!?私から生きる光を奪ったあんたが、どうしてその口で私に生きていてほしいなんて言える!!」

手負いの獣のようだった。

彼女には、もうどんな謝罪の言葉も、どんな慰めの言葉も、聞こえない。

彼女自身、もはやそんなものは欲していない。

近付けば、間違いない。殺されるだろう。

それだけ、彼女の絶望は深い。

全身を拒絶で固めて、彼女は、泣いていた。

「シルヴァ…。」

(その悲しみ…俺にも、分けてくれ。)

ブラッドは、手を伸ばし、どろどろの血にまみれたシルヴァの腕をつかんだ。