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光の中で、目が覚めた。

光の中で、目を開けた。

光の中で、体を起こし。

光の中で、立ちすくんだ。

見渡す限りの、純白。

どこまでも広がり、どこまでも躰の奥深くに潜り込んで来る、光。

目を開けるのも億劫なほどの、光の洪水。

木漏れ日溢れる光の庭園のようなそこは、しかしながら思わず動くことをためらってしまうほどの息苦しさに満ち満ちていた。

(…シルヴァ、)

あたりを見渡したブラッドは、寝ぼけて靄がかかったような頭で、それでも彼女を探した。

ここがどこだか、自分が何者であるか、そんなことはもはやどうでも良かった。

人は、自分の死を目の当たりにすると、馬鹿みたいに何も考えられなくなる。

そうして、ある者はなりふり構わず自らが生きることのみに執着する。

その一方でまたある者は、誰かに自らの命を、祈りを託す。

愛する者、愛した物、あるいはかけがえのない、何かに。

ブラッドは、ようやく立ちあがった。

体は鉛のように重い。鉄の塊になってしまったようにすら思える。

急に、世界がはっきりと姿を現した。

そこは、やはり庭園だった。

否、花が咲き誇る草原と言った方が適切かも知れない。

名も知らぬような小さな花から、良く見る野薔薇のような花まで、そこには小さく可愛らしい花がたくさん咲き誇っていた。

途端、むっとむせかえるほどの花の香りが鼻腔に流れ込んできた。

甘く、ほのかに酸い、香り。

それが元々何の花の香だか、混ざり合い、溶け合って、すっかり分からなくなるほどの、濃密で甘美な香り。

それは、彼の心を得体の知れない切なさで一杯にした。

思わず涙が滲むほど、胸に迫る気持ちだった。

(…それにしても、)

どうして、この庭園はこんなにも哀しみが溢れているのだろう。

哀しみ、切なさ、胸を打つこの気持ちはそう言ったものに良く似ており、しかし、同時に酷く幸福な気分にも良く似ていた。

懐かしい。

なによりもその名前がぴったりであるように感じられた。

そよ…

凪いだ風が、柔らかく頬を撫でて行く。

春風のようなそれに促されて、男はゆっくりと歩き出した。

さく、さく、

歩いてみると、そこは、無限に広がる草原ではなく、なだらかな丘になっているようだった。

ゆっくり、ゆっくり、彼はその傾斜を上って行く。

しばらく行くと、風に乗って一枚の花びらがやってきた。

それは、見たことのない色をしていた。

桃色。

ブラッドは、顔をあげた。

空一杯に、淡い桃色の花が舞っている。