男は、音もなく倒れた。

その身体は血と土で濁った水溜まりに触り、ばちゃりと水しぶきを上げた。

光ね女神は、彼の胸から優しく刃を引き抜くと、その周りに結界を張った。

守り給え
癒し給え

手を地に翳して小さく唱えると、ぽう…っと浮かび上がった青い光の中に男は浸った。

「「彼の地」に逃がしたのか?ご苦労なことだ。これから皆死ぬと言うのに。」

ついに追い付いた闇の女神が、嘲笑う。

光の女神が白金の剣を構えると、闇の女神もまた、闇から取り出した漆黒の剣を構えた。

ざ…、ざ…、

雷が鳴り、雨が地を叩く。

「そんなに人間を助けたいか?グレスティア。奴らに混じって暮らし、情でも移ったか。」

「…訊かずとも、分かっているでしょう。

あなたは私、そして…今まで5人に分かれていたけれど…

私は、あなたなのだから。」

話しながらも、空気はじりじりと張り詰めて行く。

空の上からは、大気をつんざくような怒号が、響き続けている。

構えながら、闇の女神は笑った。

「あぁ、分かってるさ。

あの男がこの女を連れ戻せたなら…その時は我の審判ミスだ。

人間を赦し、また大人しく眠るとしよう。」

ぐっと腰を落とす。

右足を後ろに引き、力を込める。

ざりり…

水気を含んだ土が喚く。

「ただし…」

殺気が、膨れ上がって行く。

光の女神は、歯を食い縛って守りの姿勢を取る。

殺気は、

膨れて膨れて…

闇の女神が、叫ぶ。

「それまでお前が消えずに居たらばな!」

ついに、弾けた。

ギィ…ン!!

ふたつの刃が、互いの命を欲して噛み合った。