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その牙は余りにも獰猛で巨大で、俺はピストルを抜くことさえも忘れてしまいそうだった。

撃つ。

全く微動だにしない。

適うはずもない。

それは、まさに肉食獣を前にした哀れな兎の絶望だった。

(…喰われる!)

牙は、目の前に迫った。

ぎらりと光る。

そして、

止まった。

「…な、」

思わず瞑った目を開けると、二頭の竜が、もつれあっていた。

燃えるような深紅の鱗を全身に纏った美しいドラゴン。

それは、火の女神フレイアによく似ていた。

牙を剥き合い、炎を浴びせ合い、二頭は地上を離れて、そうして獰猛な戦いが始まった。

いつしか、世界は薄暗く蠢く闇に浸っていた。