「ぐ、げほっ!げほ、ごほっ!!」

激しく咳き込むと、鉄臭い血が飛び散った。苦しくて苦しくて、狂ってしまいそうだ。

すると、頬にひんやりと心地よいものが触れた。

手のひらだった。

「さあ、立ちなさい。紅き瞳のブラッド。立って、戦うのです。」

そこに立っていたのは、ほのかに光り輝くような銀の髪を持つ、銀の瞳の、女。

「シ、ルヴァ…?」

「否。私は、光の女神グレスティア。5人の若き女神達は、あなた達人間と共に有ることを決めました。さあ剣を取って…」

差し出された白金の刃。

不思議なことに、言われるがままにそれを握ると身体を犯していた灼熱の苦痛が止んだ。

「あんたは…一体。」

「闇の女神グレスティアと私は、もともとひとつの存在。私は…」

「久しいな。グレスティア。」

鈴のように清らかな声を、冷たい声が遮った。

闇の女神グレスティアと光の女神グレスティアは、互いにを確認するかのように、ゆっくりと向かい合った。

闇の女神が唸った。

「今さら何をしに出てきたのだ。貴様が我に人間を投げて寄越したから、わざわざ根絶やしにしてやろうと言うのに。」

「私は、あなたが目覚めた時は審判をするよう頼んだはず。殺戮ではなく。それなのに、なぜこんな…」

「頼まれた審判の、これが結果だ!今や人間は地に堕ちた。」

風がごうごうと唸りを上げた。骨竜デダが、血と肉を欲して叫ぶ。

その酷い音に、闇の女神グレスティアは顔をしかめた。

「光の女神(グレスティア)、その男をこちらに寄越せ。食わせろと五月蝿くてかなわぬ。」

ギャ、ルルル…

その時、ついに待ちきれなくなったデダが、ブラッドの血肉を所望した。

巨大な鯨ほどもある骨の竜が、獲物の血で染まった牙を剥き出し、未だ手負いの傷から立ち直れずにいる男に襲い掛かる。

ギャオオオオ!!!

真っ赤な死が、口を開けた。