「じゃあ…」

「だけど、俺が今ブライトを殺せば、俺は…一生許せないと思う。

俺、自身を。」

それを聞くと、アイシエの声が苛立ったように荒れた。

「それは、随分と自分勝手な理由ね。逃げるの?命を背負うのが怖いの?ブラッド。

この男のために、たくさんの人間が死んでいるのよ?今だって。どんどん死んでいる。

あなたがブライトを殺すのは正義だと思わないの?多くの人の敵(かたき)を、あなたは取る義務があるわ。」

ブラッドは、目を閉じ、そして、開いた。

「断る。意気地なしと思うなら、そう歴史書にでも書けば良いさ。

目先の大義のために命を奪ったらそれこそブライトと同じになっちまう。そんなのは御免だ。」

「ふぅん…」

「シルヴァを止める方が、先じゃねえのか。」

そう言うと、ブラッドはふらつく身体を支えながら立ち上がった。

「グレイを殺したのは、確かにブライトかも知れない。だが、シルヴァを巻き込んだのは…俺だ。

あいつはそのせいで両親を失ったんだ。

ブライトが正義のもとに殺されて当然ならば…俺だってそう言うことになる。」

大きく息をついたブラッドは、痛む身体を叱咤して走り出す。

まだおぼつかないが、確かな足取りで歩み寄ると、彼は体重をかけて重厚な扉を開いた。

「ありがとう、誇り高き女神アイシエ。罪深い俺たち兄弟は死ぬべきかも知れないが…せめて、罪のない者たちには、希望と祝福を与えてやってくれ。」

ドアが、閉まる。

廊下を駆ける足音は次第に小さくなり、再び部屋には闇が訪れた。