「ブライト。」

返ってくるのは、静寂。

「ブライト!」

静寂。

「ブ…ブラッ、ド…」

それは、今にも消え入りそうな蝋燭のともしびに似て。

「私の、弟、ブラッド…」

男の声を聞いて、意識が急にはっきりとして来る。

怒り。

強烈な怒りが、こみあげてくる。

そうだ、この男は俺を殺した。

妹を呼び出すと嘘をついて、長い間、ずっとずっとつき続けて。

そうしてこの男に呼び出されてやってきたのは、妹グレイではなかった。

狂気だった。

お前の、殺意だった。

…コロシテヤル。

「放せ!」

「やめなさいブラッド!」

「放せぇっ!!!」

アイシエをひきはがして這いずって、ブラッドはただがむしゃらに倒れ伏す男の元へ向かった。

近くに寄って見ると、彼の胸、ちょうど心臓の真上には、黒く淀めく生きた闇をまとったナイフが深々と埋め込まれているのが見て取れた。

ナイフ…?

どうして、この男の胸にナイフが刺さっている?

「どういうことだ…。」

「ブラッド、済まなかった…」

「どういう、ことだ。俺を殺して、お前は、グレスティア様を呼び出したんじゃなかったのか…」

「…私は、わたし、は、わた、しは…す、済まな、い、済まなか…た、ブラッド。ブラッド…」

男の声は、涙に濡れていた。

何度も話しかけたが、もはやろくな会話にはならず、彼はただ「ブラッド、済まない。済まなかった。」そう繰り返すばかりだった。

そうして、ついには苦しげに呻く声しか聞こえなくなった。

う"…う"…う"…

「ブライト…。」

「…この男は…グレスティアが許さない限り苦しみから解放されることはない。

真実が…知りたければ、私が教えるわ。

但し、それがあなたの心を慰めるか傷つけるか…ブラッド、私には分からない。
だから、覚悟して聞きなさい。」

「…こいつは…ブライトは、何者なんだ…」

「あなたと血のつながった兄よ。」

静寂が、耳に刺さる。

うう…ううう…

呻き声。

「…嘘だ。」

「本当よ。そして、もうひとつ言わせて貰うと、あなたが将来自分の王座を脅かすことを恐れて…妹さんとあなたを引き裂くことを考え…」

…実行したのも。

「嘘だ…う…嘘だあ!」

頼む…

嘘だって、言ってくれ…頼む…。

心が、裂けそうだった。