銀の刃。

先ほどブラッドの喉を掻き切ったあのナイフが、今度は近寄ることすら躊躇するほどの底なしの闇を纏っていた。

「民を救う為に、お前は一体何をした?言い逃れできると思うな。

この娘は何だ?お前が贄にと選び手元に置くために謀って両親を殺したな。

そこで死んでいる男は?お前と血の繋がった本物の弟だな。

そいつ自身、その事実を知らなかったのに、その男の妹を犯して狂わせ、わざわざ殺し合うように仕向けたのだな。

民の為だと…?

ふざけるのも大概にしろよ、人間風情が。」

胸にナイフが刺されば、あっという間に人は死ぬ。

だが、漆黒の刃は容易く獲物を苦痛から解放してはくれない。

「この詩(うた)を只の伝承と思うたか?否。代々女神が記録して来た物語、歴史だ。

人間に宛てた我らからの祈り、そしてお前達人間が一人一人、一日一日、生きて作り上げて来た物語だ。

それが何故分からなかった。」

「う"……ぅ、」

「汝の罪は重い。良く良く噛み締めながらゆっくりと死ね。この世界が終わる様を見ながらな。」

言い放つと、グレスティアは暗い室内を見渡し、何か見えないものを感じるように目を閉じた。

「…嗚呼、感じる。悲しみ…苦しみ。闇が、満ち満ちている。漲るな…この忌々しい力が…。」

眉を潜めてそう呟くと、最後に、もがき苦しむブライトをちらりと見やって、グレスティアは闇に溶けた。