「汝は、何者か。」

冷ややかなまでに涼しげな声が、ブライトの耳を潤した。

「私はブライト。グレスト王家の者です。」

「成る程…では、何故我を永き眠りより呼び覚ました。汝の望みは何だ。」

「私は、バラバラになっているグレストを再び束ね直し、グレストの覇者になることを望みます。」

「…ぬしが、グレストの覇者に?」

「はい。どうか願いを聞き入れ下さい。大女神グレスティア様。今や大陸には苦しみしか溢れておりません。私なら必ずや民を救って見せます。」

黙って聞きながら、グレスティアは冷たい表情をぴくりとも変えない。

「ブライトとやら、グレスト創世記、グレスティアの章の始めを諳(そらん)じてみよ。」

「は…」

汝が救いを求めし時
五つの涙を我に納めよ
我は永き眠りより目覚めん

冬が終わらず
草木が死に絶え
グレストが危機に瀕す時

我は汝に力を貸そう

若しくは
汝の死をもって
其の罪を背負うが良い

グレストは死の衣を纏いて
火の涙を流し

最期の一瞬まで
汝等と共にあるだろう

そこまで唱えさせると、グレスティアは真っ白な手を上げて、ブライトの言葉を制した。

「もう良い。ではブライトひとつ聞こう。この詩(うた)は、どういう意味だ?」

「え…?」

「私欲の為に我を目覚めさせるなと言うことだ。」

この、戯(たわ)け者が。

氷の刃のように鋭利な言葉が、ブライトの耳に届いた時、

「あ"………、」

同じように鋭利なナイフが、深々と男の胸を差し貫いていた。