今度は、青年が立っていた。

また、泣いていたのだろうか。目の周りが赤い。

しかし今度は、彼は私を認めると笑顔を作った。

「こんにちは、私はブライト。あなたは?」

「シルヴァです。」

「今日は王子が国王から洗礼を受ける大事な日だ。そんな時に、あなたはこの庭で何をしているんですか?」

「…王子様は、あなたの弟さんですよね。」

「いや。替え玉らしいですよ。私が彼に会ったのは、もう互いに成長してからでしたしね。よく知らないんですよ、彼のことは。

家来たちは、あれは替え玉で本当に王の血を引く弟は他にいると噂していますが。」

「はぁ…」

「まあ、あの国王が死ねば分かることです。…どんな男なんでしょうね、父に将来を約束された弟って言うのは。」

「あなたは、…出来損ないなんかじゃありませんよ。」

思わず、そう声に出してしまった。すると、平静を保っていた青年の顔が、怒りに歪んだ。

「分かった風なことを言うな!幼い頃から父の理想に沿うように生きてきた、それなのに…それなのに…」

「あなたは、お父さんに認めて欲しかったんですよね?」

「…分からない。ただ、どれだけ頑張って勉強しても、礼儀正しく振る舞っても、魔法が使えない私を父は見てはくれない。そう思うとき、私は…いつも決まって叫びたいほどに泣きたくなる。」

どうして…

そう呟くブラウンの瞳に、またうっすらと涙が浮かんでいた。

何だか、悲しかった。

抱きしめてあげようと手を伸ばすと、急に意識の深淵に引き戻された。

世界は、再び闇に満ちた。