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前々から、私には「跳ぶ」癖があるなあとは気が付いていたけど、今回深く深く自分の意識の中に入ってみて、初めてはっきりそうだと悟った。

私は、シルヴァ。

深くにはいるけど、そのことがはっきりと解っているから、大丈夫だと思う。

大丈夫、私は私。

他の誰でもない。

ブライトによって、意識の淵まで突き落とされて、また誰かの過去の記憶か何かに、飛んで来てしまったようだった。

真っ白な世界。

徐々に色づいて、輪郭を帯びて行く。

どこか、大きな庭のようだった。

薔薇だろうか。花々の良い香りが鼻腔を満たして幸せな気持ちにしてくれる。

私は、歩き始めた。

ここは、一体どこだろう?いっそ天国なら良いと思ったけど、父と母が迎えに来てくれないから、違うと思いたい。

綺麗に手入れされた小道を進んで行くと、道の突き当たり、白い薔薇が茂みのようになっていり場所に、誰かがしゃがみこんでいるのが目に入った。

「あの…大丈夫ですか。」

一応声をかける。

びくりと、大袈裟な程に肩を震わせて、その人はこちらを見上げた。

澄んだブラウンの瞳が印象的な、少年だった。

泣いていたのだろうか。その目の周りは真っ赤になっていた。

「どうしたの?何か悲しいことがあったの。」

そう尋ねると、少年は痛々しいくらいに泣き顔になった。

「お…お父さまが…お父様が、」

「うん。」

「ぼ、僕を…出来損ないだって。」

「…どうして?」

「僕が…僕は王族なのに、魔法が使えないから…だから、僕の弟が将来王様になるんだって…お父様が…うぅ、」

そこまで言って、少年はまた涙に暮れた。

幼い心に、親から受けたの拒絶の苦しみは、果たしてどれ程深く惨たらしいものなのだろう。

私には、想像もつかない。

「そっか…辛かったね。」

「でも、おかしいんだ。僕、弟なんていない…弟なんて知らないんだ…」

「君のお母さんには、赤ちゃんいないの?」

「うん…いないよ。」

よくわからないなと思っていると、再び世界が霧に覆われるように白くなって、またじわじわと明るくなった。