かつかつと、自分と部下の足音それしか聞こえないのもまた、何となく不気味だ。

それにしても、

「…ひでぇ臭い、だな。」

「ん…えぇ。」

エルザは気もそぞろな様子で相槌を打つ。それもまた、違和感。

「みんな、どこ行っちまったんだよ。テレビもラジオもやってねぇし…俺がいない間に、何があった。」

「言ったでしょう、ボス。首都グレストでも竜巻が起こって…それから急に酷い天気になって…雨が降ってきたの。」

「血の雨、か。それで、住民や、ここの連中はみんな何もかもほっぽり出して逃げちまったのか?」

「そんなこと…いえ。いいえ。それで良い。お願いボス、そういう事にしておいて頂戴。…痛、」

急に言葉を切ったエルザは、頬を押えてその場に蹲ってしまった。

「エルザ…?」

駆け寄ると、彼女は苦しげに呻いたが、頬を押えている反対の手でブラッドを制した。

「ボス、私なら大丈夫だから…今から控え室に戻るわ。」

「……。」

「だから、ボスはブライト様の部屋に行って…早く。グレスティア様を喚んで、グレストを救って…」

「おい、エルザ!」

そう言うなり、エルザは倒れた。

抱き起こすと、その身体は嘘のように熱い。

「早く行って…」

力なく、腕が垂れ下がる。

「───!」

瞬間。

ブラッドは、言葉を失った。

「エルザ…お前──」

必死の思いで美しく保ってきた彼の顔の左半分が、焼けただれたように膨れ上がっていた。

嫌な予感に急かされ、ブラッドはエルザを担いで職員控え室へと向かい、

そこで、地獄を見た。

室内に満ち満ちた数多の呻き声に彩られた、あまりに酷いその光景は、

「ブライト…」

絶望と言う言葉によく似ていた。