「…シルヴァ君。」

放心したように小さくなって行くナグラの姿を見つめていると、不意に声をかけられた。

男の声だった。

「シルヴァ君。」

振り返る。

知らない男がそこに立っていた。

「…誰、ですか。」

「ああそうか。私たちはまだ初対面だったな。すまない。」

私は君のことを良く知っているものでね。つい、

饒舌な、この男は、何だ。

「誰じゃ、貴様は。」

名を名乗れと、フレイアが唸る。

いつの間にか、彼女は私に寄り添い守るように包んでくれていた。

男の顔面に貼りつけた完璧な笑顔が薄気味悪い。それでいて、瞳には得体の知れない、ぎらぎらとした光が宿っている。

その欲望の光は、果たして何に対してのものなのかが分からない。

だから、男の存在は尚更私の恐怖心を煽った。

「私は、君の上司だよ。名前はブライト。」

─ブライト。

グレスト王国付き国家警察
国務長官ブライト

頭の中で、文字の羅列が踊った。

…この人が、グレスト国家警察で一番権力がある人なの?

馬鹿みたいにそんなことしか考えつかなかった。

「ブライト?…ではそなたが、グレスト王家の者なのか。」

しばらく訝しげに男を見ていたフレイアが、口を開いた。

その時、

不気味なほどからりと晴れ渡る孤空に、破裂音が響き渡った。

はじめ、私はそれが何の音か、理解することが、できなかった。

隣に立っていた
フレイアの大きな体が
地面に
横たわった姿を
見て
その鈍い音を
聞いて
ようやく、

それが

銃声だと理解した。