彼女がいなくなると、店主は昼間だと言うのに店じまいを始めてしまった。

私がジェシカの後を追うように店を出ると、馬を使ったのか、既に彼女の姿は跡形もなかった。

どきどきと駆ける心臓の鼓動にあわせて吐き出す息が白く凍って、乾いた空気の中に消えて行く。

背後で、ブラッドが盛大にため息をついた。

「おい、ヤクタ。」

「…は?」

「想定外の事件に対しての対応力、ゼロ点だ。どうして、何者だと聞かれてシオナの者です。とひとこと言えねえ。」

激しい口調ではないが、明らかに馬鹿にしている。

「冴えねぇ顔だとは思ってたが、」

だめだめだな。

そう言いながらブラッドは私に背を向けて、薄暗い路地の方へと歩き出した。

…役立たず?

「ちょっ…誰が……」

「お前は、この先にある城に行って王と面会でもして来い。」

「何で私が…」

「仕事しろ、仕事。」

ちょっとは仕事できますってとこ見せてみろよ。新人。

ひらひらと手を振りながら、ブラッドは角を曲がって、ついに見えなくなってしまった。

「あーもぉ、訳分かんない!!」

怒涛の如くに押し寄せ始めた現実に、寒さできん。と痛む頭は怒りを通り越して、むしろ冴え切っていた。

(何やってんだ…私。)

こうしてシルヴァは、雪の降りしきる中に1人、立ち尽くすのであった。