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それは、突然だった。

島の目前、あとほんの数十分でガガナに到着すると言うとき、急に空が曇り始めたかと思うと、にわかに強い風が吹き始めた。

直ぐに海は荒れ、嵐が訪れた。

水面が、とてつもなく巨大な生き物のように蠢く。船は、濁流に呑まれた木の葉のようにその流れに弄ばれる。

苦しくて、座ってすらいられない。さっきまで目前に見えていた火山も黒曇に覆われ、前も後ろも分からない。

揺らぶられる感覚に、吐き気を覚える。

きつく目を閉じて、混乱に耐えながら、私は床を這うように蹲った。

一歩も動けない。終われとどれほど願っても、この悪夢は終わらない。

(誰か………)

…娘、

それは、びゅうびゅうと荒ぶり、唸る風に混じって。

娘、飛ぶのじゃ!

確かに私の耳に届いた。ぐらぐらと揺れる床の上に何とか立ち上がり、波の力で割れた窓から外へと視線を向ける。

波と雨で、船内はぐしゃぐしゃだった。

降りしきる雨が顔中を叩き、視界を邪魔する。

「誰!?」

こちらじゃ!

「み、見えません!!」

窓から手を出してこちらに身を乗り出すのじゃ!早く!沈んでしまう!

導かれるように壊れた窓から手を出すと、そこで船が一際大きな波に煽られてひっくり返った。

ぐいと、腕ごと体を引かれる。

視界一杯に、空のように黒い海が広がって、次の瞬間、私は誰かの力強い腕に抱き抱えられて飛んでいた。