「て、てめぇ…」

どんだけ荒っぽくすりゃあ気が済むんだ!

そう叱り飛ばしてやろうとブラッドは大きく息を吸ったが、結局それは吐き出されることなく不発に終わった。

「…町が、」

この港町には、昔仕事でよく訪れていた。

町の中央に聳える大きな時計台が美しい、こじゃれた海辺の町プロヌ。

しかし今や、時計台は根元から折れ、死んだように町中に横たわっていた。

時計台から放射状に並んでいた家々は至るところが痛み、崩れている。

土煙が酷い。

塵が、降りしきっている。

「…何があった。」

ふらりと、体の痛みも忘れて車外にさ迷い出た。

「竜巻に、襲われたそうでございます。」

「竜巻…だと。」

「ガガナの島におわします火の女神に封印されていた亡き者のあらぶる魂が解き放たれ、暴れているのです。」

ブラッド様がガーディアナに出かけられた時以来、各地で竜巻が後を断ちません。

従順な召使のように、運転手は恭しくこうべを垂れた。

「町のどこかに、シルヴァ様が乗っていらしたグリフィンがいるはずです。それに乗り───」

ピリリ、ピリリ、

静かな惨状に、気味が悪いほど無邪気な着信音が鳴り響いた。

着信、ブライト国務長官。

(どうしてこんな時に、)

何かが起こる。そんな不気味な予感が頭の片隅にちらついた。

「もしもし、こちらブラッド──」
「おお、ブラッドか。残念だったなぁ。」

時間切れだ。

背筋が、凍りついた。時間切れ、つまりそれは──

「ブラッド。首都グレストに戻れ。後は私がやる。」

ついに始まってしまう。

「お前のやり方じゃあ、フレイアから涙を譲り受ける頃には紅き使者が消えてしまいそうだからな。」

今まで逃げ回って来た現実と、己の醜い欲望に、

向かい合う時が。

「命令だ。ブラッド。」

首都グレストへ帰還せよ。