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「うるせえ!電話口でぎゃーぎゃー喚くな!」

荒れた山道は死ぬほど凹凸が激しい。

常に車はがたがたと揺さ振られ、身体はいちいちどこかしらにぶつかる。

現に今も、叫んだ拍子に舌を強かに咬んでしまい、ブラッドはあまりの苛立たしさに文字どおり震えた。

「とにかく落ち着け、エルザ!首都グレストが、何だって?」

携帯電話の向こうから聞こえる麗しいオカマ声は、ブラッドの部下エルザのものだ。

騒音が酷く、向こうも、相当騒がしいことになっているらしいことが伺えた。

「─何?」

彼女(彼?)は、完全に涙声だ。

「血が、降って来た…だと?」

再び、激しく車体が跳ね上がる。

(野郎、どんな道選んでやがるんだ!)

救護部隊と共にやってきて、ブライトの部下だと強引に自分を山道に引きずりこんだ運転手に内心毒づきながらも、信じられない思いでいっぱいだった。

「デルガラン砂漠の「赤砂」が飛んで来てんじゃねえのか?

とにかく落ち着け、ガガナに着いたらまた連絡する!」

何とか切断ボタンを押すと、いきなり凄まじい力で前に引っ張られ次いで、今度は前方から殴られたように勢い良くシートに押し付けられた。

車が、急停止したのだった。