ざざ…ん、ざ…ざぁ…ん

海鳴り。

つんと鼻をつく、潮の匂い。

それに混じって、私は微かに灰のような匂いがしていることに気がついた。

小さな窓から、顔を出すと、しょっぱい風が、頬を叩いていく。

目の前に、大きな火山があった。

天に向かって聳えるその巨大な姿に、科学の国ライラシティで見た御神木を思い出した。

もくもくと先端から黒煙を上げる火山の裾には、石ころや岩だらけの陸が広がっている。

イヴァは「小さな島」と言っていたが、それはきっと地図上の話だ。

現実は、紙切れの世界よりはるかに広大だった。

船はゆっくりと島(火山に。と言った方がしっくり来るかもしれない。何せ、この島のほとんどが火山の一部でできているのだ。)に近づいて行く。

「お客さんよぉ、悪いけどもしばらく港には帰れねぇぞ。プロヌの町の方の海が大荒れみてえで。」

少し慌てたように、真っ黒に日焼けしたオヤジさん船長がブリッジから私に声をかけてきた。

分かりました。
大丈夫、構いませんよ。

私は、エンジンの音にかき消されまいとそう叫んだ。

女神の涙が揃うころに、元に戻っていれば、それで十分だ。

特に気にもかけずに、ぼんやりそう考えた。

首から下げた女神の涙。

そっと握ると、淡い紫の光が溢れて小さく震えるように揺らいだ。

優しい紫色。

あぁ、イヴァさんの瞳の色だなぁと思ってから、不意に母の瞳もこんな風に優しい色だったことを思い出して、

私はほんの少しの間、唇を噛み締めて、泣いた。

かくも容易く、人は死んでしまうものなの?

ねぇ、母さん。